『奈落の底から見上げた明日』(照ノ富士春雄・著)
* * * * *
今年夏場所、初日から快進撃で勝ちっ放しの大関照ノ富士は、十一日目、妙義龍を小手投げで降し、さらに星を伸ばした・・・かに見えた。
協議の結果、なんと照ノ富士が妙義龍のマゲ(髷)を掴んでいたとして反則負け。思わぬ形での連勝ストップとなった。
この「マゲ(頭髪)掴み」反則、直近の例では、九州場所八日目、逸ノ城(写真左)が貴景勝のマゲを掴んでいたとのことで反則負けになっている。
(この相撲での審判の対応の問題については以前の記事で述べた)
それにしても、以前(いつ頃の「以前」だったかは未詳)はかなり露骨にマゲ(頭髪)を掴んで引っ張るようなケースでもなければ反則にはならなかったものだと思うが、現在では「マゲ掴み判定」が厳しくなっているようだ。
1981年九州場所、のちに「ウルフスペシャル」と呼ばれる上手投げで栃赤城を投げる千代の富士。しかし、このときは首根っこではなく、もろに頭を押さえている。今なら反則になるかも知れないが、当時は問題にもならなかった。
こちらは『大相撲』誌の写真。説明文に「頭をおさえつけ」とハッキリ書いているが、別にそれが問題だと言っているわけではない。
私も、これが反則だったとは思っていない。要するに言いたいのは、相撲の流れで「頭を押さえた」場合まで「掴んだ」と同一視されてはならないだろうということ。
こういう場合と区別するために「故意に」の文言があるのだろうか。この「故意」性の有無も、よく問題になる。
2014年には「故意に」の削除を検討すると伊勢ケ浜審判部長が言っているが、結局、実際には削除されていないようだ。
大達羽左ェ門氏ツイートによると「この規定文言の元になったと思われる昭和28年5月掲示では、故意の文言は入っていないようである」↓
下の二枚は「大達羽左ェ門」氏のツイートに添付された画像。
マゲを掴むことは最もよく見られる反則だが、にもかかわらずと言うべきか、だからと言うべきか、最も問題になる反則でもある。私も「故意に」の文言は不要だと思うが、それとともに「掴む」ことと「押さえる」「触れる」ことの区別も厳密にして欲しいと思う。
やはり行司に反則の判定権を
また、以前の記事でも主張したが、行司に反則の判断権を与えるべきだ。1972年夏場所九日目、大麒麟-魁傑戦で、大麒麟が魁輝のマゲを掴んで引き倒し、反則負けとなったが、
このとき、当時の立行司式守伊之助は、軍配をいずれにも上げなかった。審判協議の結果、大麒麟の負けとなったが、伊之助は「大麒麟がまげをつかんだのが判ったので、審判長の指示を仰ごうと思って軍配を上げなかった」と語った。しかし、行司には東西いずれかに軍配を上げなければならないという規定があるので、注意処分にされた。
(北出清五郎『大相撲への招待』広済堂/130-131ページ)
これはおかしな話で、伊之助はどうすれば良かったのだろう。マゲを掴んだことがわかっていても、反則の判断権が認められていないのだから魁傑に軍配を上げるわけにはいかない。さりとて、とにかく倒れたのが魁傑の方だから大麒麟に軍配を上げるいうのも変ではないだろうか。「審判長の指示を仰いだ」という伊之助が言うのも、一応理屈の通った話だ。
(こういう場合、もし大麒麟に軍配を上げたら、審判協議で「差し違い」とされるのだろうか。またはやむを得ないケースとして行司の黒星にはならないのだろうか?)
反則の判断権はないが軍配は上げねばならないという矛盾、権限はないが責任だけは負わされる。これはやはり改めるべきだ。