「このごろは行司がまた不細工だな。相撲取りにおっかぶされて、ひっくり返るなんて見たことないよ。もっと真剣に行司の体さばきを考えなければいけないよ。今ごろになって行司部屋のトレーニングなんて言っているだろう。冗談じゃないよ。それが商売なんだから」
「僕らの時の行司は、呼吸を合わせるために行司部屋で相撲を取っていた」
これは読売『大相撲』誌、1980年秋場所総決算号の「総評座談会」中での天竜三郎氏の発言。その背景は次のようなことだった。
「行司さんも体力作りを」と木村庄之助以下34人全員の行司さんが、九州場所前の10月4、5の両日、11月5、6、7日の3日間を蔵前国技館、福岡の九電体育館でそれぞれ体力作りをやることになった。
これは、四日目の土俵で幕内格行司の木村筆之助が転倒、さばきができない失態を演じたが、その原因は「日ごろのトレーニング不足」ということになり、庄之助らが率先して行司全員で体力作りをしようということになったもの。ジョギング、なわとび、シコ踏みなどをやり、成果が上がれば続けていくという。
庄之助は「行司も力士と同じように相撲を取っているという気持ちで臨まなけばいかん。それには動きが大切だ」とこのトレーニングを重視している。
(前出『大相撲』101ページ)
問題の一番。玉ノ富士-荒勢戦。
以下5枚の写真はNHKテレビより画面を撮影したもの(中入り時の「思い出の土俵」というコーナー)
この一番以外にも、この年は幕内、十両で行司の転倒事故が相次ぎ、いわば「行司の質」が問題になっていた。
この総評座談会には小坂秀二氏も出席しているが、
「中日(なかび)に東京新聞の、昔、運動部長をなさっていた方と見ていたんですが、途中で『小坂君、行司がばかに邪魔だね、昔は、いたかいないか意識しなかったが、ばかに邪魔じゃないか』と、それだけ(昔と)違うんですね」
と語っている。
【行司にも体重制限導入を検討してみては?】
ここ数年も、以前にもまして行司と力士の接触、ニアミスを見ることが多いような気がする。
今年の春場所、千秋楽の結びでも、正代と接触した式守伊之助が土俵から転落し、軍配も勝ち名乗りも上げられないという事態が起きた。
立行司が転落なんて前代未聞だ。
2019年秋には(これは伊之助ではないが)力士とぶつかってもいないのに一人で土俵下まで吹っ飛んで行って自爆、なんてことまであった。
行司さんにはお大事にというところでもあるが、はっきり言って醜態としか言いようがない。
[力士みたいな行司が増えた]
気になるのは太った体型の行司が増えていること。
立行司からしてそうだ。
力士のような行司がよく見られるようになった。
山と川 間(あい)に小さく 庄之助
といって、行司は力士を引き立たせるために小柄が良いとされたのだが。
「山と川」というのは、もちろん昔の力士の四股名には「山」や「川」の付くものが多かったということ。
「武蔵山と清水川、それを真ン中でさばく庄之助、なるほど、その情景が目に浮かぶようではないか」(北出清五郎『話のふれ太鼓』廣済堂144ページ)
当然だが、太っていることが人間として悪いという話ではない。
ただ、ある道のプロを志すなら一定の条件を課すことはあって然るべきだということ。
力士の新弟子検査に体重制限(下限)が設けられているように、行司も入門時に制限(上限)を設けるべきではないだろうか。
そして現役中は体格維持を義務付ける。
競馬の騎手などは、体重(上限)が競馬学校入学条件になっており、またレースごとに定められた体重を超過すると失格となり騎乗できないため、現役中は常に体重維持に気を遣っているという。それがプロだ。
騎手並みにする必要はないにしても、何らかの条件は必要ではないだろうか・・・。
【呼出も・・・】
返す刀で呼出も斬ると、何とかならんかと思うようなまずい呼び上げがしばしば聴かれる。
呼出の仕事は非常に多く、何も呼び上げだけではないとはいうものの、その名が示す通り呼び上げは重要な仕事なのだから、これまた入門時に声のテストくらいしてみてはどうだろうか。
今は「立呼出」制度も設けられるなど、呼出の立場も向上しているのだから、ボイストレーニングなど、頑張ってもらいたい。