横綱昇進の条件〜「準ずる成績」をめぐって

照ノ富士が横綱昇進。

夏の優勝に続き、名古屋では優勝こそ逃したものの、堂々の14勝。しかも初日から土付かずで千秋楽に第一人者・白鵬と全勝対決を戦った活躍、まず文句なしの昇進。

ところで、一部報道では、十二日目が終わった段階で「横綱昇進ほぼ確実に」という見出しが躍った。

照ノ富士、横綱昇進ほぼ確実に 名古屋場所12連勝 | 毎日新聞 

「照ノ富士が仮に残り3日間を全敗しても、昇進の条件とされる「優勝に準じる成績」に当てはまるため」というのだが、「ちょっと勇み足じゃないか。まだ早い」と思った。

◆「有名な」横綱審議委員会「内規」

有名な――ちょっと有名になりすぎたと思っているのだが――横綱審議委員会の審議内規、

第2項.大関で二場所連続優勝した力士を推薦することを原則とする。

第3項.第2項に準ずる好成績を挙げた力士を推薦する場合は、出席委員の3分の2以上の決議を必要とする。

この第3項が「準優勝」――優勝力士の成績の次点の成績――のことだと解されることが多い。つまり「二場所連続で準優勝」もしくは「準優勝→優勝」「優勝→準優勝」で条件クリアというわけだ。

だが、微妙なところのようだが、注意して読むと「第2項に準ずる好成績」であって「優勝に準ずる」ではない。つまり「優勝に準ずる成績」ではなく「二場所連続優勝に準ずる成績」と読めるのである。

白鵬(NHKテレビより)


◆貴ノ花(貴乃花)の例

「第2項に準ずる」とは、どういう場合か。

好例と思えるのは、1994年秋場所全勝優勝の貴ノ花。この年、初、夏と優勝。その間の春、名古屋も11勝4敗と、まずまずの成績。そして秋には全勝。すでにこの年3回の優勝、しかも通算6回目の優勝(過去には現役通算で1回や2回しか優勝できなかった横綱がゴロゴロいる)。

こういう成績を「第2項に準ずる好成績」とは言えないだろうか。二場所よりもっと長いスパンで考えることも可能じゃないかというわけである。実際、当時、相撲評論家・三宅充氏は「二場所連続準優勝以上の、準ずる成績」だと評価した。

貴乃花(『歴代横綱71人』ベースボール・マガジン社/巻頭グラビアより)

だが、当時の横審は、相撲協会の諮問に対し「見送り」の決定を下した。「連続」していないことが条件を満たしていないとの判断だったのである。これに対し、前出の三宅氏は「納得がいかない」「審議内規は完璧だが運用に問題がある」と横審委員を批判した。

逆に、連続してさえいればいいということになると、例えば、たまに11勝まで優勝ラインが下がることがあるが、二場所連続11勝の優勝でも横綱昇進させるのか(おそらく協会は諮問もしないだろう。しかし、今の横審は「諮問があれば認めるつもりだ」と言いそうな気がする)。

さらに言えば「準優勝」で良ければ、二場所連続10勝でもいいという事にもなってくる(これは極端な想定だが、あえて極端を考えることで本質的なものが見えてくると思う)。

つまり「準優勝」「二場所続けて」ということに拘泥すると、そもそも横綱としてやっていけるのかという、最も肝心な面が見過ごされてしまうことにもなりかねないのだ。

◆横審は要らない でも今のところなくなりそうにもない

三宅氏が言うように、狭まってしまっている今の解釈、運用を見直すべきだろう。また「大関で二場所連続優勝・・・を『原則とする』」なのだから、二場所優勝、即、横綱、でいいわけでもない。私も三宅氏と、ほぼ同意見だ。

照ノ富士(NHKテレビより)

「ほぼ」と言ったのは「内規自体は完璧」とする三宅氏と違って、本来、横綱昇進は、協会の番付編成会議と理事会だけで決めてしまえばいいと思っているからだ。

横綱審議委員は発足時こそ、舟橋聖一、尾崎士郎等の、名だたる相撲通たちがメンバーに名を連ねていたが、今の委員に、まあお忙しい人達だろうから毎日欠かさずとは言わないが、できる限り相撲を見ようと努めている人がどのくらいいるのだろうか。

(小坂秀二氏によると、協会幹部は内心は横審など無用の長物だと思っているだろうという。しかし、波風立ててまで横審を廃止したりはしないだろうとも)

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