シャケじゃないんだから〜吊り技に抵抗

伝説となっている2009年春場所十二日目の把瑠都-栃煌山戦――大相撲春場所2009 写真特集:時事ドットコム大相撲春場所12日目 栃煌山(右)をつり出す把瑠都(大阪府立体育会館)www.jiji.com

――ではなく、伝説になったのは、この時のNHK放送席、北の富士さんの解説。

(以下、4枚の写真は2017年7月にテレビ朝日系列で放映された「力士・親方70人&ファン1万人がガチで投票!大相撲総選挙」から画面を撮影したものです)

「栃煌山なんとかしないのか」

「足をバタバタするとかね」

「吊られっぱなしであんた、シャケじゃないんだから」

グーグルで「栃煌山」を検索すると、候補に「栃煌山 シャケ」が表示されるようになり、栃煌山には気の毒と言うしかない。

確かに抵抗しないのも「何とかしないのか」だが、バタバタするのもカッコいいとは言い難い。子どもが親に抱えられて「やだやだ!おもちゃ買って!」と叫んでいるような光景が浮かぶ。

1981年初場所千秋楽、14日間土つかずの千代の富士が、一敗で追う北の湖に吊られたとき、足をバタつかせて抵抗。しかし抵抗むなしく吊り出される。

『燃えよ!千代の富士』講談社/19ページより

必死さは伝わってくるが、千代の富士を好きになっていた少年の私にも、軽い(あくまで軽い)幻滅を覚える姿ではあった。

もっとも、激しい抵抗にあった北の湖は吊り出した後、膝から崩れ、

(DVD「大相撲大全集・昭和の名力士」6より画面を撮影)

そのまま転倒。

これで千代の富士は「これは膝が弱いんじゃないかな」と直感し、そこを突けば勝てるかも知れないと活路を見出し、このあとの優勝決定戦、上手出し投げで北の湖を膝から崩して勝ったのだから、無駄な抵抗ではなかった(千代の富士貢・向坂松彦共著『私はかく闘った』日本放送出版協会 35ページ参照)

吊りに対しては、外掛けで対抗する手もある。

1972年秋 輪島の吊りを外掛けでこらえる貴ノ花。この写真もテレビ朝日「大相撲総選挙」から。

なお、北の富士より前に「シャケ」の創始者がいたらしい。

長年NHKの相撲放送に携わったアナウンサーの北出清五郎によると、

横綱柏戸鏡山親方は素朴な人柄そのままの解説。

吊られたお相撲さんが、何の抵抗もしないで吊り出されると、

「なんだ、歳暮のシャケが吊られたような格好をして・・・」

思わずこっちも吹き出すような見事な表現だった。

(北出清五郎著『はなしのふれ太鼓』廣済堂 24ページ)
柏戸(七代鏡山/DVDマガジン名力士風雲録・大鵬/14ページ)

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