9日には、初場所初日を迎える。
◆千代の富士初優勝~1981年
私の記憶に残る最も古い初場所は、1981年、千代の富士が初優勝、大関昇進を決めた場所だった。千秋楽は、家族揃ってテレビの前にいた。
十四連勝の千代の富士と、一敗で追う北の湖の対決となり、最高に盛り上がったのだが、通常なら千秋楽には東張出横綱の北の湖とは東大関が対戦するところ。だが、その大関貴ノ花は七日目に大関在位五十場所目にして引退。西大関増位山は、北の湖と同じ三保ヶ関部屋だから当たらない。そこで東関脇千代の富士との楽日対決となった。貴ノ花は最高のお膳立てをして土俵を去った。
北の湖は、本割りでは千代の富士を破り、決定戦で千代の富士が勝利して優勝となったわけだが、その後、北の湖の談話が入り、
「『関脇に全勝だけはさせるわけにはいかなかった』ということで、優勝は二の次、というところだったようです」
そばで一緒に見ていた父が「優勝は二の次、か。北の湖というのは、ああいうところが小憎らしく思われるんだろうな」
決定戦をリアルタイムで見ていた私だが、北の湖が膝から手をついて土俵に這った直後に、千代の富士の体も崩れて同じく膝と手を着いたので、正直、どっちが勝ったのかわからず、実況の向坂アナウンサーが「千代の富士優勝!」と叫んでもピンと来なかった。
相撲を見始めて間がなかった頃だったからだろう。今、写真や映像を見ると「こんなにハッキリした決まり方だったかな?」という気がしてしまう。
◆玉の海-石橋アナの対決
一年後、1982年初場所は、またも北の湖と千代の富士が千秋楽に優勝を賭け、今度は横綱同士の対戦。
解説の玉の海梅吉は中入り時から「北の湖有利」の予想。
その結びの取組となり、いよいよ制限時間いっぱいという時、実況の石橋省三アナウンサーが、
「玉の海さん、北の湖有利の予想は変わりませんか?」
玉の海「変わりませんね」
石橋アナ「それでは私は千代の富士でいきましょう!」
結果は北の湖優勝。
「石橋さん、私の勝ちですな」
と得意気な玉の海さんだった。
◆双羽黒失踪のあと・・・
1988年初場所を目前にした、87年12月27日。父が「おい、双羽黒が『家出』したぞ」。何のことやらわからなかったが、翌日の新聞には一面に「横綱双羽黒が失そう」との見出しが躍った。
この時は父も「また、あのお騒がせ横綱が何かやらかした」くらいに面白がっていたようだが、このあと、双羽黒は引退(協会には残らなかったので、当時の用語では「廃業」)に追い込まれるという衝撃の結末となった。
相撲協会機関誌『相撲』の初場所総決算号は、横綱の引退だというのに、わずか1ページ取り上げただけ。他のページでは、総評座談会の冒頭で司会の北出清五郎氏が「今場所は残念ながら双羽黒の廃業、大乃国の休場があり」とサラッと触れ、また辛うじて読者投書欄に一つだけ双羽黒引退に関するものがあったが、その他には双羽黒の「フ」の字も出てこない。
「相撲部屋聞き書き帖」という各部屋情報のページの立浪部屋の項さえ「年末の騒動が嘘のように静かな新年」と、何の騒動かは語らず。まるで双羽黒なんて力士は初めからいなかったかのような、明らかに意図的に忌避した編集の仕方で、かえって異様な感じだった。奇しくも『相撲』第500号の記念の号だった。
◆大震災のさなか
1995年初場所は、貴乃花の新横綱場所。大関で二場所連続全勝優勝での横綱昇進は双葉山以来とあって、相撲誌には「六十九連勝の始まりだ。夏場所十日目、七十連勝の歴史的瞬間を見る」みたいな、調子に乗った(?)記事もあったが、初日早々武双山に負け、連勝フィーバーはそこまで・・・まあ、大抵の見方は、場所中のどこかで連勝は止まるだろうというものだったが。
場所中、十日目に当たる17日に、阪神淡路大震災が起きる。千秋楽の館内では黙祷が行われた。
話が初場所から逸れるが、同年3月の春場所中には、地下鉄サリン事件が勃発。5月の夏場所中には、その事件を起こした某宗教団体の教祖逮捕と、この年の上半期は騒然とした雰囲気の中での本場所となった。
初場所の話題に戻ると、優勝者は貴乃花。千秋楽結び、二敗同士の横綱相星対決で曙を、さらに決定戦で大関武蔵丸を連続撃破しての優勝。現在ではお馴染みとなっている、表彰式中での優勝力士インタビューが初めて行われたのは、この場所から。それまでは、表彰式前の共同インタビューの様子がテレビに映されていた。観客も見える形でのインタビューは英断として、これまで通り共同インタビューも放送して欲しいとの声もあった。
↑『奈落の底から見上げた明日』照ノ富士春雄・著
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今年は、どんな幕開けになるだろうか――。
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